designershome’s blog ~デザイナーズホーム~

専業主婦から不動産・建築の会社を起業したおばさんの話

Kさんが亡くなった理由

私が出会った個性的な人は 数えあげればきりがありません。

 

特に建築業界などは 荒くれ物の集まり(失礼しますよ)。

その中で 7~8年前になりますか・・・。

特異な亡くなり方をしたKさんのお話をしたいと思います。

 

Kさんとの最初の出会いは 必ずしも良い印象ではなく、出来ればもうお会いしたくない・・・。と言う感じの初対面でした。

 

産業廃棄物の会社の社長さんです。

始めてお会いしたのは 仲間と集まる居酒屋さんでした。

年の頃なら もう70歳をとうに過ぎている親父なのに 彼女を連れて現れました。

 

飲めや歌えやの この連中の集まりの中で 特に羽振りが良くて 産業廃棄物ってそんなに儲かるんだ~・・・。って感じですが 私はこの業界では珍しい女性の社長です。

 

しなだれた女性を連れて参加しているこの爺さんに好感が持てるはずもなく・・・。

ほぼ 別の世界の人って感じでいました。

 

しかし、この爺さんの羽振り・・・・。

 

いつも財布にみっちりと1万円札を詰め込み、どの酒の席でも そこに居る全員の酒代をポ~んと出しています。

そして、関わる男性陣にとっては 男の中の男・・・という事で 半ば神格化されているようでした。

男の友情は 私には理解できないのです。

彼らは、時に家族より大事な存在であると  女性には入る事が許されない世界であると 肌で感じてきたころ(私には家族が一番)・・・。

 

私は仕事で 重大な問題に接していました。

同業者から のっぴきならない状況で梯子を外された・・・と言うのか。

残土の埋め立てが絡んだ山林の 抜き差しならない所で 関連業者が手を引き・・・。

迷走し、苦悩する私の前に かのKさんが現れました。

 

依頼された手つかずの山林は 沼地に生息する大木の森です。

一本の大木を切り倒すのに100万円の見積りが出ました。

特に手に負えない大木は4本。

水は常に湧き上がります。  昭和の時代は蓮の花が咲いていた土地です。

 

400万の木を伐り倒さないと近隣の猛反対でとん挫してしまいます。

さて、  買い受けを約束した業者は 銀行の融資を理由に梯子を外してきました。

近隣の説明会も終わり 先に進み始めた矢先でした。

 

進むも退くも出来ない状況で 私は夢を見ました。・・・何度も・・・・。

 

山が襲ってくるのです。

この山は大昔から 近隣の雨水を貯め、洪水を防ぎ昭和の時代まで軍用の列車の徴用地にもなっており、そこには地元の方々の深い因縁や 環境保全のための重要な土地でした。

山の神に飲まれそうになったある日・・・ 居酒屋で Kさんに会いました。

「どうしたんだ!」  ふさぎこむ私にKさんが尋ねます。

 

一通り話すと 彼は 「なんだ そんな事か・・・」と言いました。

「そんなもの!   俺が明日切り倒して更地にしてやるよ。」

「でもお金は 何処から出すのか見通しがないよ!」 地主は お金が無いから売りに出しているのです。

「売れたら貰うからいいよ・・・」

 

みんなお酒が入っています。

ワイワイ騒いで ごちゃ満開の中の話に どこまで信ぴょう性があるのか・・・。

半信半疑で 次の朝 9時に 私が現場に辿り着いた時に目にしたのは、 きれいに切り倒され輪切りになった4本の大木でした。

大人が 3人でも手が回らないこの太い木は 朝飯前にきれいな輪切りになっていました。

 

居酒屋の飲み仲間の社長からも 酔った勢いで 「俺が買うよ。」と手があがります。

あっと言うまに 駅5分のジャングルはきれいな更地・中規模団地となり現在は 多くの新住民のふるさととなりました。

因みに 購入してくれた社長さんから「こんなに儲かった土地は無かった」と絶賛されました。

私は 儲けそこないましたが、リスクを考えるとこれで良かったと思っています。

 

それから何か月も経たないある日・・・。

朝食を食べながら 新聞を読んでいました。

ふと目に留まった  地方版の下段に 「 会社社長拳銃で撃たれて死亡 」・・・と

書いてあり そこにはKさんの名前が書いてあります。

 

全身から血の気が引きました。

恩義あるこのKさんに 何が起きたのか・・・。

新聞によると 従業員同士のもめ事でノイローゼになった男に拳銃で後ろから撃たれた というのです。

 

朝ごはんも放り出し とりあえずKさんの自宅に向かいました。

丁度その時 検視を終えたKさんの亡骸がかえって来たところで 奥様から 会ってやって下さいとの言葉を頂き 対面させて頂きました。

 

人間って・・・魂が抜けると本当に小さくて。

爺さんの割には若くて元気な 昭和の社長さんが 本当は小さなおじいさんだった事に驚きました。

お顔に血の跡が付いていました。

 

男の友情で結ばれた連中の嘆きはひとしおで 、彼らはなかなか立ち直れずにいました。

丁度仲間の社長さんのお父さんの葬儀の2日程前の事件だったので、葬儀場には

Kさんのあげた花輪が 入り口に建ててありました。

御通夜の席は まるで Kさんの御通夜の様で 鎮痛極まりない痛ましい席となりました。

 

私はとうとう Kさんにキチンと心から謝ることが出来ないまま、お別れをしてしまいました。

そして、この男たちの厚い友情ロマンに軽い嫉妬を覚えながら 今日まで来てしまいました。

「撃てるものならものなら撃ってみろ!」  と犯人に背を向けて歩き出したKさん。

あなたらしい最後だったと。

今日も この居酒屋には Kさんの席に一杯の日本酒があげられています。