新築現場は、どんなに早くても着工から約4か月。 そこまでに辿り着く迄土地の選択や住宅ローン付け、図面の打ち合わせ建築確認などで 半年以上かかります。
長い間その現場に関わり その関係者の方々、又は近所の方に出会いそして別れます。
今から10年程前になりましょうか・・・・。忘れられない現場がありました。
とある町の とある現場で私は恐怖の体験をすることになります。
建築中の現場には 毎日いろんな人が覗きに来ます。
その中でも いつも決まった時間に愛犬の散歩に来るおじいさんがいました。
年の頃なら70歳前後の 優しいそうな言わば好々爺と言う感じでしょうか。
Sさんと言いました。
現場の土手に腰掛けながらよもやま話の中で、実は同郷人だと分かるとお互いに見知らぬ土地で生きている苦労などを語り合い、5回に一回位の頻度でお会いしていました。
そんなある日 Sさんから「実は 売りに出したい土地があるんだけど相談にのってほしい」 と電話がありました。
早速Sさんのご自宅をお尋ねすると 何か奇妙な感じがしました。
外部を拒むような塀の造りや、チャイムの無い門に 放し飼いの(多分)ドーベルマン
ボクサー? 兎に角いつも連れている犬ではない凶暴な(感じの)犬。 良く飼いならされていてSさんが合図をすると唸るのをやめます。
にこやかなSさんとはあまりにかけ離れたその同郷人の佇まいにかなりの違和感をかんじて戸惑った記憶があります。
やっと中に入らせて頂くと 造作したプレハブの内部には何やら 恐ろしく怖い人たちが4~5人・・・いや6~7人いました。
彼らの一人と目が合った瞬間 何か得体の知れないぞ~っとした恐怖が襲ってきて目をそらしました。
いつもの通りのにこやかなSさんの部屋には 金色の額縁の「金融業」の許可証がかざってあり、そこで私は初めてSさんが 金貸しだと知ります。
彼に依頼を受けた物件は 私の町から車で30分程離れた海に近い山村でした。
やっとたどり着いたその地は 恐ろしく臭い・・・藪の中に古~い農家造りの家があります。
近所に養豚場 そして肥料小屋があったからです。
おそるおそる庭先に入ると、玄関の入り口に何か紙が貼ってあります。
「この家は 差し押さえてあります。 住人は中に入らないでください」 確かそんな事が書いてあったような記憶があります。
記憶は定かではありませんが、 この住宅が何かトラブルの原因になっていることが分かりました。
少し離れた農家のお父さんに聞いたところ、この家の息子さんが多重債務者になって方々ともめているとのこと。
様々な情報を手に入れて私は この案件が私の手に負える案件で無い事が分かり、後日Sさんに丁重にお断りをしました。
何かSさんの底知れない怖さを感じながら・・・・。
それから、何か月もしないある日 完成した新築住宅に入居したお客様から驚きの電話が入りました。
何とSさんが 殺されたとの事。
・・・・・・・絶句・・・・です。
本署の刑事さんが近所で聞き込みをしていたらしいのですが、何せSさんは近隣とのお付き合いが全然なくて 何ならSさんが住んでいたことも知らない人が多数いたとのこと。
内部を見た人も どんなお付き合いがあったのかも全く謎の人物だったというのです。
しかも、当初は病死か事故死かとおもわれたのですが、解剖の結果 首を千枚通しのようなもので刺された殺人事件だというのです。
刑事さんが 私の所を訪ねて来たのは それから1ヵ月も経った頃でしょうか。
刑事さんはお土産のお菓子を持って約一時間の道のりをやってきました。
住宅内部の事 出入りしていた人間の事 細部にわたり知っていることをお話ししました。
私はやっていません! と付け加えて・・・笑
あれから長~い月日が流れましたが、いまだに犯人は捕まっていません。
迷宮入りしたようです。
でも あの日私と目があったあの男の顔は思い出す度身震いがします。
忘れられない出来事でした。